3.「ヘッド・クオーター」の担い手意識

 1.で触れたように、新潟にはサッカーに関して目立った蓄積が無い。そのような地域 において、いかなる社会的属性を持った人々がいかなる動機でAllianceに参加し、HQと して活動を担っているのかについて、調査結果を見ていきたい。

 HQメンバー(11名)の社会的属性の特徴を見ると、全員が男性、年齢は20歳代後半か ら30歳代後半、職業は専門職(3名)、管理職〈5名)、販売職(2名)に集中し、具体的 にはMBA取得者(会社社長)、公認会計士、イベントプロデューサー、大手金融業管理職、 公務員管理職、民間企業管理職、医薬情報担当者(製薬会社勤務)、プロゴルファーなどと なっている。学歴は全員大学卒業か中退である。

 また、HQ全員が新潟市内在住で、新潟県の平均通勤時間は38分であり全国で2番目に 短い(2000年「NHK国民生活時間調査」より)。さらに、余暇状況も専門職や販売職など、 自己裁量で時間が融通できる仕事内容になっている人が多い。管理職の場合もボランティ ア活動になると、会社での支持も得やすい。これらの条件も、HQとしての活動を可能に させている。また、全員がインターネットを日常的に利用しており、HPや電子メールを 通じてAllianceに結びついたというHQも4名ほど存在する。

 スポーツ歴を見ると、確かにサッカー部活動経験者(5名)が最も多いが、およそ半数 に留まっていて、他のスポーツ部活動経験者も多い。ただし全くスポーツ経験が無い人は いない。また、以下でも触れるように「転勤族」が多いことによって、学校外のスポーツ クラブ活動の経験者は4名に留まっていて、新潟での活動経験者は3名であった(ともに サッカー)。

 注目すべき特徴は出身地で、「県人率」が高い新潟県において県内出身者が3名に留まっ ている。また、いわゆる「転勤族」はそのうち5名である。当初創設に関わったメンバー は「転勤族」が中心であり、現在のHQは非「転勤族」(6名)が多くなったとはいえ、新 潟出身者も含めて東京圏や大阪圏での生活を経験していることである(2名を除く、ただ し札幌と広島に居住歴あり)。

 移動の多い生活経験はAllianceでの活動の動機付けに大きく関係している。例えば、サ ッカー未経験者で転勤族のHQは以下のように語る。


 じゃあ、なぜ関わったかというところで言うと、転勤族で、会社の仕事の都合で、各地に転勤する可能 性があります、と。最初、新潟県の長岡市、新潟県としては最初そこに配属になって、そこに至るまでに は最初茨城、水戸、その次が、東京が勤務地で、住まいが横浜と、そういう中で転勤族のいろいろな地域 との関わり方があると思うのですが、何か会社以外の、例えばそれは、青年会議所であるとか、そういっ たいろいろな活動をしたい。でも、青年会議所はちょっとな。もうちょっと気楽な、それでいて地域の自 治会というわけでもなく。もう少し、楽しいというか、楽しみのあるような何かがないかと。それは、地 域のスポーツクラブに入ることだったかもしれないし、趣味の、何かサークルに入ることだったかもしれ ない。

 (中略)簡単に言うと、会社以外の組織というか、そういったものの活動をしたかった。で、まあ、た またまボランティア、SONを立ち上げるというところで、顔を出していたところ、ウチの会社の企業文化 なのか、言わずにはいられなくなり、あ−だこ−だと言っているうちに、まあ運営委員のうちの1人とい うことになり、わりと一生懸命、参加するようになったと。

(HQのインタビュー記録より)


 補助的に集めたアンケートによると、Allianceへの参加の動機として「サッカーが好き」 (8名)が最も多いのは当然として、次いで「ボランティアに興味がある」、「全く知らな かった人と仲間になれるから」、「仕事や家庭以外で、自分が必要な場を求めていた」(各4 名)となっている。このように、主たる動機は「サッカーが好き」と「人的交流が楽しい」 という2点に整理できる。

 さらに個別HQの活動動機に踏み込んでいくと、転勤族のサッカー経験者は転勤先でサ ッカーに関わることの難しさを実感しており、その中で既存サッカー競技団体の体質への 違和感も浮かび上がってくる。A氏は自身の経験を以下のように語る。


 新潟で、何かやりたいという中で、例えば指導者ができへんかって動いてみたんですが、駄目なんです よ。簡単にいうと、「指導者なりたい」と、新潟県サッカー協会に電話する。その前のステップとして、ア ルビレックス新潟の中心的になっている方と親しくなっていて、「その人のご紹介で」というところまでこ ぎつけながら、新潟県サッカー協会の指導育成係みたいなところに、学校の先生をつかって、電話すると、 「アルビレックスの○○さんのご紹介で、じつは、指導員のライセンスを取りたいんで、講習を受けたい んですけど」「あんたは、新潟県サッカー協会に登録してるか」「してません」「そんなら、あかんな」と、 簡単に言うとね。どっかのチームに登録しておくと、OKなんですね。で、審判講習会も受けてないと駄 目。じゃあ、審判講習会ってどうすれば受けれるか。登録して、半年後。で、待ってたら1年かかるんで す。指導者講習会にたどりつくまでに。それで、もう意欲がなくなった。で、ある時に、ぜんぜん別のと ころから、日本サッカー協会の代表の強化係に訴えたら、「当たり前や、ばかもん。受益者負担や!」どう いう意味かというと、「地域のサッカー協会に登録、加盟して、登録料払って、その金でお前ら指導講習会 とかやれるんや。お前ら、登録もせんと、それだけ欲しいんか、当たり前やろ」つて言われたんです。

 俺、「それ違う」と思ったんです。それを受益者負担なんて、ふんぞり返るスタンスっていうのは、僕は 違うと思う。そうは言わなくても、言うべきじゃないと。僕もサービス業でやってる立場から言うと、「金 も払わんと、何言うとんねん」と腹の中で思ってても、やっぱりそういうスタンスの態度をとるのは、良 くないと。そういう中で、指導者というところでも、どうやら自己実現できそうにないなと。

(A氏のインタビュー記録より)


 A氏自身のサッカー歴は、高校時代は県内ベスト8、社会人になってから東京都社会人 リーグ1部の選手と監督を経験している。しかし、新潟に転勤になり、上記のような状況 の中で実践的対応としてAllianceを立ち上げた経緯がある。決して敵意は持っていないが、 W杯に向けた県や既存団体との協調も、スムーズに行われているとは言い難い。

 しかし、彼らには既存団体に代わって新潟のサッカー界を担うという気負いは無い。ほ とんどのHQが語るように、本来の選手育成などは既存団体でなければ出来ないもので、 あくまでも「サブカルチャー」としての活動定着を目指している。A氏が語るようにサッ カーには「する」だけではなく、「見る」、「語る」という楽しみ方があって、「新潟の酒場で、 普通にサッカーの話題が語られる」ような「サッカー文化」の定着に資すれば、とHQた ちは考えていると言える。


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