4.Alliance2002の安定的運営への可能性

 冒頭で触れたように、スポーツ分野に限らずNPOないしVAの分野では、その団体数 や活動は活発になっているものの、維持、継続という面で大きな課題を抱えている。具体 的には、人材確保と活動資金確保の課題である。さらにAllianceの場合には、HQのもと にそれぞれ独自の活動内容を持った組織・企画があって、当然それらには固有のニーズが 存在し、そのニーズは必ずしも「全体」としてのAllianceへの関心につながってこないと いう問題がある。これらの問題を検討することによって、Allianceの安定的運営への可能 性について考察したい。

 まず、人材確保と活動資金確保の課題であるが、活動資金については「もくはち」から の収入がある程度見込める状態となっている。SONは交流の機会などを除いて経常費用 がほとんど無く、HQの他には、UNIがアウエーツアーなどに使用するかたちになって いる。基本的に「サッカーで稼いだお金はサッカーに使う」という了解の範囲で、別組織 の使用を認めていて、これもAllianceという組織形態の特色である。また、万代ファンビ レッジなどの企画はその都度、共催者やスポンサーを募るなどして独立採算にしている。 それゆえ、新しい恒常的な組織・企画の立ち上げをしない限り、資金面では問題は無いと 言える。

 次いで、特にHQの人材確保については、転勤族中心の体制であったため、いかにして 新潟に住み続ける人を軸にした体制に組替えるかが、発足以来の課題であった。そして、 実際2001年10月にA氏を含む発足以来のメンバー2名が転勤してしまった。これを機に新 代表を含む3名の非転勤族をHQに迎え入れ、現地HQ9名のうち6名が非転勤族となった。 新しく加わったメンバーはSONや「もくはち」からAllianceの全体の活動に関わるよう になった。「意識的に育てたつもりはない」と言うものの、「常連」になった人に少しづつ 組織的な仕事を任せていくなど、結果として系統的な担い手育成を行ってきたと言える。

 そして、この転換は単に活動の継続ということだけではなく、新潟人のAllianceへの見 方を変えていこうという趣旨も含まれていた。

 どうしてもAlliance自身はよそ者の集団と言われる。基本的には地元の人たちのグループではないな、 と思われている。それは我々のやっかみかもしれないが。逆にそうじゃないんだよ、と。Allianceはこれ からもずっと続くんだよ、ということを打ち出すためには新潟に骨を埋めるであろうと思われる人で代表 を、と。
(HQのインタビュー記録より)

 また、先述のように発足当初はA氏のイニシアチブが強かったが、新体制発足後はそれ ぞれの組織・企画の担当者が各々の判断で動いていく性格が強くなっている。そして、個 別の組織・企画に普通に参加しているメンバーは各々の組織・企画への意識が強く、HQ メンバー外では、Alllanceという「全体」が意識されにくい状況がある。

 このように全体の執行・調整機関のもとに、個別ニーズに対応した独立性の高い組織が 配列されるという組織構図は、VAの組織論としては理想的な組織形態と評価されている が、その場合でも「全体性」をいかに維持するかが、難しい課題となっている。Allianceの 場合、「全体性」は「サッカーが好き」という枠で括られているが、実際に行われているよ うに、HQメンバーが一般参加メンバーに他の組織、企画への参加を働き掛ける努力が不 可欠である現在のところ、メンバーの交流の軸は「もくはち」である。

 また、HQメンバー各々の「全体性」についての考え方は、Allianceという言葉の原義 でもある「緩やかなる連合」という趣旨では一致しているが、さらに個別的に踏み込むと、 個別組織がしっかりすればそれで良いという意見もあれば、個別組織の立場から広報・資 金面でAllianceにつながっているメリットを強調するコメントもあった。反対に、発起人 かつ中心であったA氏転勤後の「求心力」をNPO法人化という組織的な「殻」をつけて 補強しようという考えもあった。

 AllianceのNPO法人化は2000年頃からHQの議席に上がっていて、今年3月末にも 法人として認証される予定である。法人化に向けた当初の理由づけはW杯ボランティアの 団体登録のためであった。

 その後、Allianceが多様な企画に取り組むようになり、その独立採算のために後援者や スポンサーを募るようになったが、例えば契約の場面で、団体としてのオーソリティをも つ必要性を感じたと言うHQも複数存在する。そこにA氏の転勤、「トップダウンと権限委 譲」が特徴であった組織形態からHQの協調的体制への変化、個別組織・企画への意識が Allianceという「全体」へ向かわない間席、これらを解決する方策としてNPO法人化に 踏み込んだといえる。ただし、法人化によって発生する納税、実務の煩雑さ、さらには組 織的な「殻」をつけることによって「惰性で流れて」しまい、VAのヴォランタリーな部 分を失ってしまうのではないか、という危惧も語られている。

 そして、多くのHQメンバーが語るように、何よりもW杯後にどのような活動展開を図 るのかが大きな課題となっている。この点についてのHQの展望は明確ではないが、とり あえずアルビレックスとの関わりが中心になると考えるメンバーが多い。この点で、2001 年度のアルビレックスの活動と観客動員数の急増(2000年度80,139人→01年度366,500 人)に力を得ているメンバーも多い。

 Allianceの安定的運営の可能性について、暫定的に述べたい。大幅な事業拡大を図らな いという前提をつけるならば、「もくはち」が競合しない限り、小規模ながら安定した収入 が期待できるといえる。この点で最大の競争相手と考えられるアルビレックス(サッカー スクールを経営)とは「もくはち」の利益を折半し、SONとの関係もあり「共存共栄」 の関係となっている。また、NPO法人化によって、関係のとり方が難しいとはいえ公共 機関、スポンサーや後援者からの活動資金調達の可能性も一層開かれている。

 担い手の系統的な確保という点では、まず第一に、転勤族中心の体制から当面脱出した ことが重要である。第二に、サッカーの「する」、「見る」、「語る」といった、多様な魅力 に対応する組織・企画の用意が、より多くの人を引き付ける可能性をもっている。第三に、 さらなる努力が必要であるとはいえ、「もくはち」を軸としたメンバーの交流が行われてい ることも重要である。HQの中でもサッカーを「する」ということがより良きサポーター (「見る」)、ボランティア、あるいは「語る」ことの必須条件であるという考えは共通して いて、その輪の中に初心者も経験者も、老いも若きも、男性も女性も取り込んでいこうと いうAllianceの原点は組織存続に向けて不可欠なものといえるだろう。

 そのような幅広い人材を取り込んでいくことは、組織の多様な方面での活性化を招く。 社会的属性のところで見たように、イベント・プロデューサーがマスコミ・広報やスポン サー確保で動き、会社社長や金融業の管理職が組織・企画のマネージメントで手腕を発揮 する、あるいは公務員や公認会計士がNPO法人の書類作成に携わる、といった具合であ る。その「異業種交流」もまた、魅力となっている。

 要するに、AllianceはAlliance(「緩やかなる連合」)であるがゆえに個別の組織・企画 も維持されているのであって、それぞれがAllianceである恩恵を受けていると言える。

 何よりも、既存の競技団体に対する「対抗勢力」という気負いがなく、サブカルチャー として自己限定していることが重要である。「日本サッカー協会が考えていない、その人た ちがすくい上げていない部分でのサッカー人口、そのニーズを拾っていって実現する」、そ れに徹することが現在考えられうる組織状況から言っても、2002年以降も存続していくた めのポイントであり、Allianceの組織ミッションから見ても、新潟で「サッカー文化」を 発信し続けることが大切なのであり、規模が小さいことは問題ではないと考える。


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