まとめにかえて
 本報告ではまず、活発と言えない新潟のサッカー事情について概観し、その新潟にW杯 誘致活動やプロサッカーチームが突然立ち上がり、市民の側の対応としても新潟県人では ない転勤族によって、Allianceが立ち上げられた経緯について説明した。

 そして、Allianceの活動自体はA氏をはじめとする多才な人材が集まったことによって、 当面W杯までは順調な運営が可能であると予測される。また、Allianceの形態を崩さず、 適正規模を維持しながらメンバーの交流を図っていくならば、2002年以降の安定的な運営 も可能であると指摘した。

 本報告で詳述することは出来ないが、Allianceの事例はVAの組織論、社会運動の主体 形成論、あるいは『レジャー白書』で指摘されている「社会性余暇」論の観点からも興味 深いものとなっている。先述したように、Allianceの組織形態は図らずも他分野のVAの 組織発展形態と酷似している。福祉ボランティアの事例と 比較しても、「全体」につなぎとめる枠付けが、「サッカー」という明確なものであり、組 織的に一層安定的であるといえる。

 社会運動の主体形成論から見ると、アルベルト・メルッチが指摘する「新しい社会運動」 の担い手の社会的属性とAllianceのHQの属性は共通性が強いといえる。「情報産業や人 的サービス業で、かつ/あるいは(とりわけ教育・福祉の)公共セクターに所属する、高 度に技術的なセクターで働く人々。高学歴で、比較的安定した経済生活を享受している 人々」で、これらの人々は「動員の中核部隊」に挙げられている。しかしながら、メルッチが指摘するように、このような運動の 性格は政治的志向が弱く、彼らにとって運動とは「行為の意味の個人的および集合的な再 獲得が中心問題」となっている。むしろ、「社会性余暇」 における「楽しみ」の文脈で捉えたほうが理解しやすい。Allianceの場合も県や既存競技 団体との関係に象徴されるように、「住み分けはするけれども対抗や要求はしない。政治 的実践からも明確に一線を画している。むしろ、自力で調達できる資源の中で活動の可能 性を追求する傾向が調査結果からも表れている。

 したがって、このような 主体が「ポピュラー民主主義」を実践する主体となりうるのかは、本報告のテーマを超え るところでもあり、留保せざるを得ない。

 しかし、Allianceの活動が意図も予期もしない結果を生み出し、新潟のサッカー界やス ポーツ界、さらには市民文化を変化させる可能性もないとは言えない。実際に新しいサッ カーサークルを生み出すような結果も出ている。そのような問題意識を持って、W杯後も Allianceの継続調査を行う予定である。


 本報告は立命館大学産業社会学部助成研究の成果の一部であり、山下高行(立命館大学教授)、坂なつこ (立命館大学非常勤講師)、北口節子(立命館大学大学院社会学研究科)との共同調査によるものである。
なお、本調査による研究成果は他に坂なつこ「サッカーファンは社会を変えるか?一調査中間報告:視点 と仮説−」『立命館大学人文科学研究所紀要』No.79、2002年、および北口節子「スポーツへの新しいアプ ローチ〜新潟におけるサッカーサポーターの事例〜」立命館大学大学院社会学研究科2001年度修士学位 請求論文がある。


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